Shofukuji The Super live series vol.17
勝福寺音楽祭

演奏会の開催にあたって住職からのご挨拶
勝福寺のThe Super live series「通称:勝福寺LIVE/勝福寺音楽祭」は、お寺という静寂な空間で一期一会のかけがえのない時間をお過ごし頂きたいとの思いから、2001年に世界的なジャズピアニスト・小曽根真さんと、ジャズベーシスト・中村健吾さんの演奏により幕挙げをしました。
17回目となるこの度は、5年ぶりに作曲家の阿部海太郎さん(2回目)と、クラリネット奏者の前田優紀さん(初)をお迎えいたします。阿部さんの音楽と私が初めて巡り会ったのは、2014年に放送されたNHK/BSプレミアムの『世界で一番美しい瞬間』という番組のテーマ曲でした。その回は、オーストリアの首都ウィーンで開催されるオーパンパルという格式高いオペラ座舞踏会に初参加する一人の少女に着目して内容が展開されましたが、その番組音楽を阿部さんが担当されていました。それはまるで天空から天女が舞い降りて来て楽器を奏でているかのような美しい旋律でした。深い感銘を受けた私は阿部さんの演奏を勝福寺で実現させたいと願い続けました。そして5年後の2019年に念願通じて、初めてお迎えするご縁を頂いたのです。
阿部さんが織り成す音の世界は誠にメロディアスで、時にファンタスティックな世界に導かれるように心の繊細な部分に響く大悲の包容力を秘めているように思います。阿部さんが手掛けられる音楽は蜷川幸雄のシェイクスピア舞台作品や、ドラマ『京都人の密かな愉しみ』、テレビ、アニメ、映画等数多くあり、最近では今年話題の映画、白石和彌監督×草彅剛主演の『碁盤斬り』や、昨年2023年の上半期に放送されたNHKの連続テレビ小説『らんまん』等が挙げられましょう。『碁盤斬り』は映画館で観ましたが、美しいストリングスの和音や、和太鼓の地響きがシーンに見事に寄り添っていて鳥肌が立ちました。また、『らんまん』の「バイカオウレン」や「オンツツジ」という楽曲はとても懐の深い名曲で、私の勝手な想像ですが、現在、世界で起こる様々な事象に希望を願い、平和に祈りを込めているように感じました。
さて、今回は前田優紀さんという素晴らしいクラリネッティストを初めてお迎えします。私は先日、youtubeで演奏を聴きました。優しくて伸び伸びとした透明感のある音色に、朗らかな人柄を想像しました。前田さんは、『らんまん』の収録にも参加されています。
さて、勝福寺は人里近い山麓にあります。音楽のことを思い浮かべながら森の木立や山々の稜線を眺めておりますと、私にはそれが時に五線譜に見えたりすることがあります。楽譜山という森の中には、多くの植物や小鳥、そして動物たちが生息しています。風の通り抜ける音や、生きものたちの生き生きした鳴き声を聞いておりますと、まるで大自然に繰り広げられる森の音楽会を連想してしまうほどです。演奏会が行われる7月21日は、時節柄、夕暮れに時は、蜩やマツムシなど夏の音色の風情をお愉しみいただける頃でしょうか。
演奏空間としての勝福寺は、他の施設とは異なり、決して恵まれた環境ではないかも知れません。と言いますのは、お客様には履物をお脱ぎ頂いて、座布団の上でお聴き頂くという和のスタイルですし(一部いす席あり)、建物の構造上、柱や鴨居の影響で景色も良好でないかも知れません。会場を彩る演出装置等は全くままなりません。しかし、山寺の勝福寺は森から凪いでくる自然の音楽会や境内に流れる波動、阿部さん、前田さんの素晴らしい人柄が奏でる旋律の波動、それらすべてが一体となる時、会場はきっと唯一無二の荘厳な演奏空間に包まれることでしょう。
私が至らぬ人間で、皆様に不自由をお掛けすることもあろうかと思いますが、皆様のご来寺を心からお待ちしております。どうぞ、美しい音楽を存分にお楽しみ下さいませ。
最後に、皆様のご健康とご多幸を心よりお祈りいたし、開催に向けた挨拶といたします。季節が進みます。くれぐれもご自愛の上、お元気でお過ごし下さい。
敬具
           令和6年6月20日
                                                                  住職 江原義空